スタローンが挑む70年代風クライムアクション『ナイトホークス』

『ナイトホークス』オリジナルポスター

『ナイトホークス』は、ふたりの刑事と国際テロリストの息をもつかせぬ攻防を描いたクライムアクション。おとり捜査を得意とするニューヨーク市警のコンビ、ディークとフォックスは対テロ特殊部隊に編入させられ、大規模なテロを計画するウルフガーという顔も分からない男を追うことになる──

主人公ディークを演じるのはシルベスター・スタローン。本作は『ロッキー2』(1979年)と『ロッキー3』(1982年)の中間にあたる1981年に公開された作品になり、ロッキーとは全く違うキャラクターに魅力を感じたというスタローンが、大胆なイメージチェンジに挑戦した意欲作である。髭面に眼鏡をかけたこれまでにない風貌でスタローンは初めての刑事役を好演し、女装姿まで披露しているのも見逃せないポイントだ。

ディークの相棒フォックス役は、ビリー・ディー・ウイリアムズ。お馴染みの人気キャラクター、ランド・カルリジアン役を演じた『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980年)の直後に出演したのが本作となる。

主人公たちが追うことになるウルフガーは、ロンドンでのテロ活動の後、整形手術により顔を変えてニューヨークに潜入する国際テロリスト。この冷酷非情な悪役を演じたオランダ人俳優ルトガー・ハウアーは、本作をきっかけにハリウッド進出に成功したのも頷けるほどの強烈な印象を残している。

オープニングから70年代の雰囲気が漂う軽快なテーマ曲がやたらとかっこいい本作。ELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)のキーボード奏者、キース・エマーソンによる音楽も本作の大きな魅力のひとつだ。

本編が約99分とタイトにまとめられているだけに始終テンポが良く、中盤に始まる追跡シーンからロープウェイでの人質立てこもりまで続く怒涛の展開は観る者を飽きさせない。

これといって大きな見せ場があるわけではないため一見すると地味な印象を受けるものの、80年代初頭の薄汚れたニューヨークの雰囲気も相まって緊張感あふれる面白い作品に仕上がっている。派手なアクション映画のイメージがついて回るスタローンだが、こんな作品も悪くないと思わせる隠れた傑作である。


『フレンチ・コネクション3』の企画から
生まれた『ナイトホークス』


『ナイトホークス』のもともとのストーリーは、脚本家のデヴィッド・シェイバーが『フレンチ・コネクション』のシリーズ3作目として書き上げたもので、前作までと同様にジーン・ハックマンが“ポパイ”ジミー・ドイル役を演じ、コンビを組む警官役にはリチャード・プライヤーが予定されていた。

しかし、ジーン・ハックマンが同じ役を何度も演じることにに難色を示したため企画は白紙に。20世紀フォックスからユニバーサル・ピクチャーズが脚本の権利を取得し、メインプロットはそのままにデヴィッド・シェイバーが自ら書き直しを行い『ナイトホークス』の脚本が完成した。

そんなわけで、序盤のドキュメンタリータッチの雰囲気や地下鉄での追跡シーンなど、どこか『フレンチ・コネクション』っぽさを感じられるのも面白い。


キース・エマーソンの傑作『ナイトホークス』サウンドトラック


数多くのプラチナ・ディスクを世に送り出したスーパーグループ、ELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)の創設メンバーでキーボード奏者だったキース・エマーソンが『ナイトホークス』の音楽を担当。

『ナイトホークス』オリジナル・サウンドトラック

なかでも注目なのは、キース・エマーソンが初めてヴォーカルをとった『I’m A Man』で、クールなベースラインが最高にかっこいい一曲だ。

サウンドトラック・アルバムは、劇場公開時にアナログLP盤が発売されて以降、2016年までCD化されなかったが、そのCDも現在では長らく入手困難となっている。

ただし、2006年に発売されたキース・エマーソンのサウンドトラック集『Keith Emerson at the Movies』に『ナイトホークス』のサウンドトラックが丸ごと収録されており、他にも『ベスト・リヴェンジ』『インフェルノ』『デモンズ3』『マーダロック』『幻魔大戦』『ゴジラ FINAL WARS』の映画音楽もあわせて聴くことができる。


At the Movies
Keith Emerson(CD)


『ナイトホークス』興行成績


1981年4月10日に全米659館で公開された『ナイトホークス』は253万ドルのオープニング興収で、同日公開の冒険ファンタジー『エクスカリバー』に次ぐ2位デビューとなった。

最終的な全米興収は1491万ドル。インフレ調整した現在の金額では4811万ドルとなり、決して悪い数字ではないものの、『ロッキー』(1億1724万ドル/インフレ調整後:5億352万ドル)『ロッキー2』(8519万ドル/インフレ調整後:3億1048万ドル)の破格の成功から考えるとスタローン自身にとって満足できる結果とは言えず、当時はまだロッキー役のイメージから脱却できずにいた。(インフレ調整金額は2022年1月時点)


『ナイトホークス』Blu-ray


2018年5月9日にキングレコードから発売されたBlu-rayには、主人公ディークの別れた妻役を演じたリンゼイ・ワグナーのインタビューも収録。リンゼイ・ワグナーの出演シーンが大幅にカットされた理由など興味深い内容が語られている。


『ナイトホークス』作品情報


原題:Nighthawks
監督:ブルース・マルムース
脚本:デヴィッド・シェイバー
出演:シルベスター・スタローン、ルトガー・ハウアー、ビリー・ディー・ウィリアムズ、リンゼイ・ワグナー、パーシス・カンバッタ
音楽:キース・エマーソン
全米公開:1981年4月4日
日本公開:1981年6月13日
全米映画ランキング:初登場2位
全米興行収入:1491万ドル