『ゴリラ』オリジナルポスター
『ゴリラ』(1986年)は、アーノルド・シュワルツェネッガーが『ターミネーター』『コマンドー』に続いて出演したクライムアクション。監督は『戦争の犬たち』『チャンピオンズ』のジョン・アーヴィン。
元FBI捜査官のマーク・カミンスキーは、5年前に少女殺害犯を半殺しにしたことでFBIから追い出され、いまではしがない田舎町の保安官になっていた。そんなとき、シカゴの裏社会を牛耳るパトロビタ・ファミリーに息子を殺されたかつての上司シャノンから、FBIへの復帰を条件にファミリーへの潜入を依頼される。カミンスキーは自らの死を偽装、別人ジョーイ・P・ブレナーとしてシカゴの暗黒街へと向かうのであった──。
映画が始まり、シュワルツェネッガー演じるカミンスキーが運転するジープと白バイのチェイスシーンが映し出されると同時に、陽気なカントリー・ロックが流れてくる。リッキー・スキャッグスの『One Way Rider』だ。この曲の調子と相まってオープニングシーンは、クライムアクション映画にしてはあまりにも牧歌的だが、この雰囲気が楽しくもある。
ファミリーへ潜入し、ボスであるパトロビタから一目置かれる存在になるまで、謎めいた美女モニクとの出会いや、用心棒マックスに正体を疑われるなど、一癖ある登場人物たちとの関わりが中盤あたりまで描かれるが、シュワルツェネッガー作品だけあって、豪快なアクションシーンも随所にしっかりと盛り込まれている。
そんなアクションシーンでカミンスキーは常軌を逸した徹底ぶりを見せる。潜入捜査のため自分が死んだと見せ掛けるためには石油工場をまるごと爆破、パトロビタと敵対する組織のカジノを破壊してもとどめに巨大なトラックで突入するなど、かつて行き過ぎた捜査で左遷されたことからも伺えるように、この主人公はどうもやり過ぎてしまうたちらしい。
そして、かつての上司シャノンが襲撃されたことで、その暴力性はさらにエスカレート。組織を内部から壊滅させるというこれまでの計画などなかったかのように、ファミリーのアジトにたった一人で殴り込みをかけて、すべての問題をたった半日で解決。カミンスキーは無事FBIに復帰するのであった…。
そんな強引な展開もあってか、『ゴリラ』はシュワルツェネッガー主演作の中でもとにかく評判の悪い作品だが、ジョン・アーヴィン監督の飾らないドライな映像とテンポを抑えた展開が味わい深く、たまに無性に観たくなる不思議な中毒性があることは否定できない。
『ゴリラ』の興行成績
1986年6月6日、全米で一斉公開された『ゴリラ』は公開3日間で543万ドルを稼ぐまずまずのスタートを切った。しかし、一部好意的な批評があったものの、一般的には高評価を得られず、最終的な全米興収は1621万ドルに終わった。
スタローン主演『コブラ』との
ライバル対決
1986年夏の時点でその年最高の全米オープニング興収を誇っていたスタローン主演の『コブラ』(8月9日 日本公開)に対抗するかのように、本作(原題『Raw Deal』)は内容と全く無関係の『ゴリラ』という意味不明なタイトルをつけられ9月6日に日本公開された。
『映画宣伝ミラクルワールド』(2013年10月出版)によると、配給会社の宣伝部長による「スタローンが『コブラ』ならこっちは『ゴリラ』だ!」の一声でこのタイトルが決定したとのことだが、コブラにどう対抗したらゴリラなのかは未だに解明されていない。
スタローンの『コブラ』とのライバル対決の行方は、『ゴリラ』の日本配収2億3700万円に対して『コブラ』が17億5800万円。アメリカ本国でも『ゴリラ』の1621万ドルに対して、4904万ドルの興収を上げた『コブラ』が圧勝という結果に終わっている。
『ゴリラ』作品情報
原題:Raw Deal
監督:ジョン・アーヴィン
脚本:ゲイリー・M・デュヴォア、ノーマン・ウェクスラー
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、キャスリン・ハロルド、サム・ワナメイカー、ダーレン・マクギャヴィン、ロバート・デヴィ
音楽:トム・バーラー
全米公開:1986年6月6日
日本公開:1986年9月6日
全米映画ランキング:初登場2位
全米興行収入:1620万ドル
日本配給収入:2億3700万円
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