1976年に第1作が公開されて以来、世界的人気を誇る映画『ロッキー』シリーズ。スタローンを無名の俳優から一躍スターダムに押し上げ、アカデミー賞作品賞を受賞した『ロッキー』の誕生から45年以上経った現在でも、その伝説は終わっていない。
シリーズ6作でロッキーのボクサー人生を描き切り、その後、ロッキーのかつての対戦相手であり親友だったアポロ・クリードの息子アドニスを主人公にしたスピンオフ『クリード』シリーズに至るまで、どの作品も観る者すべてに勇気と感動を与え続けている──。
シリーズの原点となる不朽の名作
『ロッキー』(1976年)
フィラデルフィアで借金の取り立てをしながら日銭を稼ぐ無名の4回戦ボクサー、ロッキー・バルボア。ペットショップで働く内気な女性エイドリアンとのささやかな幸福を夢見るロッキーに、チャンピオンであるアポロ・クリードとの世界ヘビー級タイトルマッチのチャンスが到来する。誰もがアポロの一方的な勝利になると思われた試合だったが──。
自分がただのゴロツキではないことを証明するため、無謀な闘いに挑むロッキー。その姿は、当時まったくの無名で日々の生活費を稼ぐのがやっとだったスタローン本人の境遇そのものだったという。自らの姿を投影して創り上げた愛すべきキャラクター、ロッキーを映画史に残したスタローンの功績を疑う者は誰ひとりとしていないだろう。
ロッキーとエイドリアンの不器用な二人の恋物語を中心に、ロッキーと同じように負け犬人生を送る周囲の人々のしがない人間模様も丁寧に描かれ、単なるボクシング映画の枠に収まらない人間味溢れるドラマとしてこれ以上ない完成度を誇っている。
スタローンがわずか3日半で脚本を書き上げ、自らの主演を条件に100万ドルという低予算で製作された『ロッキー』は、スター不在の映画ながら評判が口コミで広がり、最終的にアメリカ国内だけで1億1724万ドル(現在の5億1572万ドル相当の興収:2021年6月時点の換算)を稼ぎ出し全米年間トップの興収を記録。さらに人気は米国内にとどまらず、世界中に『ロッキー』ブームを巻き起こした。
アカデミー賞では主演男優賞と脚本賞を含む10部門の候補にあがり、作品・監督・編集の3部門を獲得。スタローンは一躍世界のトップスターの仲間入りを果たした。
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ロッキーの愛と闘魂のその後を描く
『ロッキー2』(1979年)
エイドリアンと幸福な結婚をしながらもボクサーを引退し職を失うロッキーに、アポロが再び対戦を申し出る。身ごもったエイドリアンに反対されながらも再戦を受け入れたロッキーはたったひとりでトレーニングを開始するが、エイドリアンは過労から早産し昏睡状態となってしまう。トレーニングに身が入らずにいたロッキーだが、目を覚ましたエイドリアンからの「勝って!」の一言で奮い立ち、再び世界タイトル戦のリングに立つ──。
スタローンが脚本・主演に加えて監督も兼任することになった『ロッキー2』は、1作目の構成を踏襲した無難な作りになっているが、エイドリアンとの生活が軸となり、スタローンの魅力がたっぷり詰まった一篇となっている。感動的なドラマパートだけでなく、誰もが真似をしたくなるようなトレーニングシーンや、前作を凌ぐファイトシーンでスタローンは思う存分、演出面でも才能を発揮している。
シリーズ前作『ロッキー』の後に主演した2作、『フィスト』(兼脚本:1978年)と『パラダイス・アレイ』(兼監督・脚本:1978年)が思うようなヒットに至らず、起死回生を賭けたスタローンが背水の陣で取り組んだ『ロッキー2』は、前作同様、観客の心を掴み1979年の全米年間3位の興収を記録。アカデミー賞には相手にされなかったが、スタローンは監督としても俳優としても評価を高めた。
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当初シリーズ最終章として製作された
『ロッキー3』(1982年)
『ロッキー』シリーズ3作目は、チャンピオンの座に安住しハングリー精神を失ったロッキーが、強敵クラバー・ラングとの対戦により再び往年の力を取り戻すというもの。大幅に減量したロッキーの姿は前2作とは別人のように洗練され精悍なヒーローと化した。
スタローンによれば3作目のテーマは社会順応だという。恩師ミッキーの死や、アポロとの友情、転落を経て本当の栄光をつかむ展開など、シリーズのフィナーレにふさわしい見事な結末に締め括られている。
1982年5月に全米公開された『ロッキー3』は、半年以上のロングランを続け、1億2559万ドルの興収(現在の3億9835万ドル相当の興収:2021年5月時点の換算)を記録。『ロッキー』の20%増という信じられない収益をスタジオにもたらした。
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シリーズ最高のヒット作となった
『ロッキー4/炎の友情』(1985年)
『ロッキー3』の驚異的な成功を受け、スタローンは『ロッキー』シリーズの続行を決意。3部完結と思われたシリーズが観客の熱い期待に応えて帰ってきた。
ロッキーと熱い友情で結ばれたアポロは、周囲の反対を押し切りソ連最強のボクサー、イワン・ドラゴと対戦するが、リングの上で命を落としてしまう。復讐に燃えるロッキーは、敵地モスクワに乗り込み、観客の激しい憎悪が待つリングで死闘を繰り広げる。
シリーズ4作目でスタローンは、『ロッキー』シリーズを象徴するビル・コンティの音楽を封印。全編をロック調の音楽を中心にMTV的な演出でまとめ、人間ドラマに重きを置いた前作までとは異る荒唐無稽でキャッチーな作風に仕上げた。当然、批評家からの評判は最悪なものとなったが、「アメリカン・ドリームを象徴する男」として当時絶好調だったスタローンの人気は凄まじく、多くの観客の熱狂的な支持を集めた。
『ロッキー4/炎の友情』は1985年11月に全米で一斉公開。公開後5日間で3200万ドルの興収をあげ、サマーシーズン以外に封切られた作品としては史上最高のオープニング記録を打ち立てる大ヒットを記録。1億2787万ドル(現在の3億2746万ドル相当の興収:2021年5月時点の換算)を稼ぎ出すシリーズ最高のヒット作となった。
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シリーズの原点回帰が図られた
『ロッキー5/最後のドラマ』(1990年)
1作目のジョン・G・アビルドセン監督を再度起用、音楽にもビル・コンティが戻り、最終作として製作されたシリーズ5作目。シリーズ3、4作ではスマートな言動に徹していたロッキーも本作では1作目のようなチンピラ口調に戻り、やや強引な原点回帰が図られている。
ドラゴとの死闘でパンチドランカーになり、さらに計理士に騙されすべての財産を奪われてしまうロッキー。本作では、若きボクサー、トミーの才能を買って、故郷フィラデルフィアでトレーナーとして再起を賭けるロッキーの姿が描かれる。
故郷のフィラデルフィアへ戻ったロッキーとその周囲の人々を取り巻く人間ドラマとして繊細に描き込まれており、クライマックスのストリートファイトもツボを押さえた演出で見応えがあるものになっているが、劇場公開当時はロッキーがリングに上がらないことにがっかりした観客も多かったようだ。
スタローンはこの一作で2000万ドルのギャラを手にしたが、一般的な評価はイマイチなものになり、興行的にも『ロッキー』シリーズとしては物足りない成績に終わった。
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前作から16年ぶりに製作された最終章
『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)
シリーズ最終章となる『ロッキー・ザ・ファイナル』では、遥か昔に現役を退きレストランを営むロッキーが、心の喪失感を埋めるかのように無謀な復帰戦に身を投じる姿が描かれる。
愛する妻エイドリアンに先立たれ、どこか満たされない日々を送っていたロッキーが生きる気力を取り戻していく様子は感動的で、臨場感があるファイトシーンもシリーズ史上最高レベル。監督・脚本・主演を務め、観客が求めるものをすべて出し切ったスタローンの才能にあらためて気づかされる非の打ち所のない傑作となった。
リングに立つロッキーを59歳にして演じるスタローンを誰もが無謀だと嘲笑するなか完成させた作品は、蓋を開けてみるとその内容を絶賛され、世界中で驚きと称賛をもって迎えられた。興行的にも批評的にも大成功を収めた『ロッキー・ザ・ファイナル』は、映画史に残るシリーズにふさわしい完璧な幕引きになるはずだったが…。
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『ロッキー』シリーズまさかの新章『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)
長編デビュー作『フルートベール駅で』(2013年)が称賛を浴びた監督、ライアン・クーグラーがスタローンのもとに脚本を持ち込んで実現した『クリード チャンプを継ぐ男』。『ロッキー』シリーズ初のスピンオフという位置付けで、ロッキーのかつての対戦相手であり親友だったアポロ・クリードの息子アドニスが、トレーナーを務めるロッキーとともに王座を目指す姿が描かれる。
30年にわたり自らが描き続けたシリーズを新たな才能に託したスタローンの心意気にも胸が熱くなるものがあるが、その期待を裏切らない、ロッキーの世界観を見事に継承したドラマが展開されている。
アーリーレビューから絶賛ムードで迎えられた『クリード チャンプを継ぐ男』は、劇場公開後もその評判が衰えることなく大ヒットを記録。脇に回ったスタローンはその演技が批評家から絶賛され、第73回ゴールデングローブ賞で助演男優賞を受賞。また、受賞こそ逃したものの『ロッキー』以来、39年ぶりにアカデミー賞にノミネートされた。
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『ロッキー4/炎の友情』からの因果を描く『クリード 炎の宿敵』(2018年)
ついに世界チャンピオンになったアドニスとロッキーの前に、かつてアドニスの父アポロの命を奪ったイワン・ドラゴとその息子ヴィクターが現れる。復讐を誓ったアドニスは、ロッキーの反対を押し切り因縁の対決に挑むが──。
全米興収1億977万ドルを記録した『クリード チャンプを継ぐ男』の続編。人気俳優となったマイケル・B・ジョーダンと、前作でゴールデングローブ賞を受賞したスタローンが再びタッグを組み、『ロッキー4/炎の友情』でドラゴ役を演じたドルフ・ラングレンも同役で再登場。監督は新鋭スティーブン・ケイプル・Jr.が務めた。
因縁の対決を通じて、クリード、ドラゴ、ロッキーという三組それぞれの父と子の物語に昇華させた脚本が素晴らしく、スティーブン・ケイプル・Jr.のきめの細かい演出も手伝って、シリーズ前作同様に高い評価を集めている。興行面では、前作越えとなる全米興収1億1572万ドルを記録した。
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『クリード』シリーズのその後
『クリード 炎の宿敵』が公開2週目を迎えたばかりの2018年11月29日、スタローンが自身のインスタグラムでロッキー・バルボア役からの引退を示唆。『クリード』シリーズ3作目となる『Creed Ⅲ(原題)』の製作開始が伝えられた現時点でもスタローンがロッキー役として復帰する予定はなく、スタローンも自身のインスタグラムで改めて出演しないことをコメントしている。
『クリード』シリーズからのスタローンの引退は確かなものとなったようだが、『ロッキー』のプリクエル(前日譚)シリーズや『ロッキー』シリーズ7作目を企画しているとも報じられており、その動向が気になるところ。
また、『ロッキー4/炎の友情』のディレクターズ・カット版の全米公開も2021年11月に控え、世間のロッキー熱が冷めることは当分なさそうだ。