『ラスト・アクション・ヒーロー』はなぜ失敗作と呼ばれてしまったのか?

『ラスト・アクション・ヒーロー』ティザーポスター

アクション、コメディ、ファンタジーなど様々なジャンルをミックスし、サウンドトラックには人気バンドが集結。監督は『プレデター』『ダイ・ハード』『レッド・オクトーバーを追え!』などの売れっ子ジョン・マクティアナンが務め、『ターミネーター2』でハリウッドの頂点を極めたアーノルド・シュワルツェネッガーが主演という鉄壁の布陣で製作された1993年の超大作『ラスト・アクション・ヒーロー』は、世界中で記録的な大ヒットを記録する映画になるはずだった。

しかし、いざ公開されると興収は思ったように奮わず、作品自体も失敗作という烙印を押されてしまう。現在では根強い人気を誇る『ラスト・アクション・ヒーロー』は、公開当時なぜ失敗作と呼ばれてしまったのか…?


裏目に出たレーティング問題


『ツインズ』と『キンダガートン・コップ』の大ヒットによりアクションだけではなくいつしかコメディの分野にも足を踏み入れハリウッドNo.1の人気を手にしたシュワルツェネッガー。『ラスト・アクション・ヒーロー』ではアクション・アドベンチャーの中にコメディやファンタジー要素もぶち込み、老若男女すべての観客を取り込こもうとしていた。

そこで問題になるのがレーティングで、それまでシュワルツェネッガーが主演を務めてきたアクション映画はほとんどがR指定になっており、ファミリー層を取り込むにはいつものような過激なシーンを入れることができない…。

シェーン・ブラックとデビッド・アーネットが書き上げた脚本を読んだスタジオとシュワルツェネッガーは、アクション映画としての出来としては満足したものの、シュワルツェネッガー演じるジャック・スレイターと少年との関係をもっと掘り下げたいという理由から、二人を脚本から降ろしてしまう。その後の書き直しは、『明日に向かって撃て!』『大統領の陰謀』で二度のオスカー脚本賞を獲得した大物ウィリアム・ゴールドマンに依頼。4週間で100万ドルという破格のギャラで口説き落とされたウィリアム・ゴールドマンはノン・クレジットで脚本を完成させた。

シェーン・ブラックとデビッド・アーノットが一度は完成させた脚本には下品でブラックなジョークがたくさん盛り込まれていたが、これをウィリアム・ゴールドマンはごっそり削除。かわりに、ジャック・スレイターと少年の関係をクローズアップして子供でも楽しめそうな内容に書き直された。結果、古くからのシュワルツェネッガー・ファンをつなぎとめておく程度のアクションシーンは残しつつ、過激な描写を抑えることでPG13(13歳未満は保護者同伴)のレーティングを獲得することに成功した。

しかし、これがアクション映画ファンからそっぽを向かれた原因になり、そもそもの失敗だったと言えなくもない。暴力描写の代わりに詰め込んだコメディやファンタジー要素は、アクション映画ファン以外の観客を取り込むセールスポイントになるはずだったが、その目論見は見事に外れてしまった。


強力なライバル作品の存在


ヒットするすべての要素を取り込んだ『ラスト・アクション・ヒーロー』は、1993年の全米サマーシーズンを『ジュラシック・パーク』とともにリードする存在になるはずだった。

このシーズンのおもなラインナップは、シルベスター・スタローン入魂のアクション復帰作『クリフハンガー』、スティーブン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』、トム・ハンクスとメグ・ライアン共演のラブ・ロマンス『めぐり逢えたら』、ジョン・グリシャムによるベストセラー小説をトム・クルーズ主演で映画化した『ザ・ファーム 法律事務所』、クリント・イーストウッド主演のサスペンス・アクション『ザ・シークレット・サービス』、ハリソン・フォードの『逃亡者』など話題作が目白押しで混戦が予想されていた。

1993年サマーシーズンの強力なラインナップ

『ジュラシック・パーク』と『クリフハンガー』が大ヒットを続けるなか、7月18日に公開を迎えた『ラスト・アクション・ヒーロー』だったが、オープニング興収1534万ドルで首位デビューを逃すというまさかの事態に…。ファミリー層やアクション映画ファンは『ジュラシック・パーク』と『クリフハンガー』にほとんど持って行かれている最悪のタイミングだったこともあり『ラスト・アクション・ヒーロー』には付け入る余地は残されていなかった。


膨れ上がった製作費と型破りな
プロモーション


シュワルツェネッガーに1500万ドル、監督のジョン・マクティアナンには500万ドルのギャラが支払われ、当初6000万ドルの予算で製作が開始された『ラスト・アクション・ヒーロー』。

事前にリリース日が決められていたため突貫作業で進められた撮影は予算を大幅にオーバーし、最終的に製作費は8700万ドルまで膨れ上がったといわれている。

さらに、高さ23メートルもある巨大なシュワルツェネッガーのバルーン人形を世界中に巡回させたり、NASAの科学衛星ロケットにタイトルロゴをプリントするなど、型破りなプロモーションを展開…!

最終的に製作費とプロモーション費用はあわせて1億ドル以上にも上り、全米興収の5000万ドルでは到底利益を出すことができず『ラスト・アクション・ヒーロー』は大コケ作品になってしまった。

シュワルツェネッガーに全然似ていないバルーン人形

この興行的失敗は、全米で2億ドル以上稼いだシュワルツェネッガーの前作『ターミネーター2』の大成功からの落差が大きく、そのインパクトから失敗作という印象をさらに強めた。

しかし、このアイデア満載のファンタジー・アクション大作は、その後、多くの根強いファンを獲得し、今ではシュワルツェネッガーの代表作の一つとして上げられるほど。アクションからコメディまでこなすスターとして自らのイメージを集約したスレイター役のみならず、自身が本人役を演じるなど、ある意味シュワルツェネッガー映画の集大成とも言える作品となっている。